なぜ由布島への徒歩入島にお金が掛かるのか? 前編(実地調査編)

沖縄本島から飛行機で1時間、石垣島で船に乗り換えて更に1時間、ようやく辿り着くのが西表島である。いわゆる二次離島だが、沖縄県外の人間にとっては沖縄本島まで行くだけでも一苦労である。

しかし、西表島には更に離島がある。それが由布島だ。

面積は0.15㎢、人口は8人(沖縄県『離島関係資料(令和7年3月)』)。この小さな島全体が植物園となっている。

西表島とは浅瀬で隔てられており、徒歩の他、水牛車で渡ることが出来る。由布島は西表島来島時の主要な観光名所の一つとなっている。

少し前になるが、私も西表島を訪れる機会があった。旅程の都合上、1日目に日本最南端のバス停を訪れて大原港附近で宿泊し、2日目に由布島と、西表島の集落でありつつ主要集落から更に船に乗らないと辿り着けない船浮集落を訪れ、石垣島に戻ることにした。日本最南端のバス停は少し知名度が劣るかもしれないが、由布島と船浮集落は西表島の主要な観光名所であり、そんなに変な旅程ではない。

しかし、実はこの2日目の旅程、路線バスで回ろうとすると不可能なのである。

訪問した2023(令和5)年3月当時の西表島交通(Wayback Machineのアーカイブ)と船浮海運(アーカイブ)のダイヤでは、

(豊原 7:30 →)8:20 由布水牛車乗場 9:59 → 11:10 白浜 13:20 → 13:30 船浮 15:30 → 15:40 白浜 15:50 → 17:21 大原港(→ 17:27 豊原)

という旅程一択だった。しかし、水牛車及び植物園の営業開始は9:30(記事執筆時点では9:15)。それを待って由布島まで往復していたら9:59発のバスに間に合わないのである。
※当時は船浮発12:50・白浜着13:00の船が白浜発12:20のバスに間に合わないという極悪ダイヤだったため、帰路で由布島に寄るという旅程が不可能だったが、記事執筆時点のダイヤでは船が船浮発12:20・白浜着12:30、バスが白浜発12:48と接続が改善されたため、帰路で由布島に立ち寄り、3時間後のバスに乗車して大原港着17:32という旅程が可能になっている。当時からこのダイヤだったら、普通に由布島観光を楽しみ、この記事を書くことは無かったかもしれない。

それでは、由布島へは徒歩で渡れるのだから、徒歩で渡れば良いのではないか。ところが、話はそう単純ではない。上述のように、由布島全体は植物園となっている。

screenshot1 なぜ由布島への徒歩入島にお金が掛かるのか? 前編(実地調査編)
【公式】由布島|亜熱帯植物楽園アーカイブより)

「往復水牛車&入園料」と「徒歩・入園料」という料金設定しか無く、徒歩だけ(或いは水牛車だけ)という料金設定が存在しないのである。
即ち、仮に水牛車の営業開始時刻9:30を待ち、由布島まで往復して9:59発のバスに間に合ったとしても、入園料を無駄に払うことになる。

尚、営業時間についても、水牛車の時刻とは別に、「由布島の営業時間」というものが設定されている。

screenshot2 なぜ由布島への徒歩入島にお金が掛かるのか? 前編(実地調査編)
【公式】由布島|亜熱帯植物楽園アーカイブより)

由布島=植物園という前提だから、恐らく「植物園の営業時間」を指しているのだろうが、それでは「由布島の営業時間」外に(植物園ではなく)由布島に上陸することは可能なのだろうか。

まとめると、事前情報から以下の3つの疑問に直面した。

  1. 由布島に徒歩で渡り、植物園に入園しなかった場合、お金は掛かるのか?
  2. 1.が営業時間外だった場合はどうか?
  3. そもそも海は所有権の対象にならないことから、西表島と由布島の間の海は私有地ではないのに、海を歩くだけでお金が掛かるのであれば、その根拠は何か?

しかし、実際に行ってみたら疑問が解決するかもしれないし、万が一怒られても何を根拠として徒歩入島時に料金を徴収するのか(或いは徒歩入島を禁止するのか)聞く機会にもなるので、取り敢えず行ってみた。



早速写真を撮り忘れていたので、Googleマップのストリートビューをお借りする。
西表島の主要道路である県道から、由布水牛車乗り場へ続く道路に入り、少し進んだところである。左側がチケット売場「旅人の駅」、右側が由布水牛車乗場バス停である。路線バスはここまで入ってくる。

訪問当時はコロナ禍のためか「旅人の駅」が閉鎖されており、由布島側のチケット売場で料金を支払うことになっていた。


更に進んで、砂浜への入口である。左端の緑色のマットは多分除菌用マットで、その脇には手指の消毒用アルコールも置いてある。
私が訪れた午前8時半頃は、左端のみ開いており、右側4分の3は紐で閉じられていたと記憶している。ストリートビューは営業時間内に撮影されたようだが、砂浜への出入りの規制状況としては私の訪問した営業時間外と同じである。即ち、営業時間外でも砂浜への出入りは可能な状況ではあった。

幸い周囲に人は居ない。怒られるのを覚悟で来ているわけだが、かといって怒られたいわけではないので、今の内に由布島まで往復。

営業開始時刻の9時半が近付くと、人や水牛車、自動車の動きが見られ始めた。

P3052173 なぜ由布島への徒歩入島にお金が掛かるのか? 前編(実地調査編)
西表島側から見た由布島。営業開始時刻の9時半となった。徒歩や水牛車どころか、自動車でも渡れるようだ。
(由布島の写真はいくらでもネット上に転がっているので、本記事ではこれだけ。)

間違い無く私が浅瀬を渡っているところは見られていたのだが、幸か不幸か(?)、特に何も言われること無くバス停に戻り、予定通りバスに乗り、船浮へ向かった。

結局、営業時間外の由布島への徒歩による往復は可能だった。しかし、上述した3つの疑問は何も解消されていない。

私のような厚顔無恥な人間であれば、怒られ覚悟で営業時間外に由布島まで徒歩で往復することが可能であろう。しかし、幸いなことに世の中にはもっとまともな人間の方が多い。

西表島には多くの観光客が来る。中には、時間が無くて徒歩による往復しか出来ないのに已む無く入園料も支払った人や、砂浜に出ることを諦めてしまった人が居てもおかしくない。砂浜への入口のほとんどが閉じられているわけで、そこから先はお金が掛かると考えるのも当然である。そもそも、旅程から外してしまった人も居るかもしれない。

であれば、何に対して料金を徴収しているのか、どこまで料金不要で出来るのか、明らかにすべきではないか。

後半では、机上調査を踏まえて、以上の疑問に答える。